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夜は短し 歩けよ乙女

  • 映画
Yoru wa Mijikashi Arukeyo Otome | Time Out Tokyo
© Tomihiko Morimi, Kadokawa / Nakame no Kai
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タイムアウトレビュー

湯浅政明監督の新作は、どこか奇妙なラブストーリー。迷宮京都を舞台に巻き起こる、永い永い一夜の物語

森見登美彦のベストセラー小説を原作とするアニメーション映画『夜は短し歩けよ乙女』。人気俳優でありミュージシャンの星野源が、大学のクラブの後輩である「黒髪の乙女」に思いを寄せる「先輩」の声を演じる。 

ある夜、2人はクラブOBの結婚祝賀会に参加するが、それは迷宮のような夜の京都で繰り広げられる風刺劇のような冒険に発展していく。街中で大混乱が起きるなか、先輩は自らのロマンチックな願望を満たすべく、なるべく彼女の目に留まるための作戦、通称「ナカメ作戦」を開始するのだった。

本作でメガホンを取ったのは、アニメ『クレヨンしんちゃん』や、『スペース☆ダンディ』、『アドベンチャー タイム』などを手がけたアニメーター、脚本家の湯浅政明だ。湯浅が森見の小説を映像化するのは今回で2度目となる。2010年にテレビアニメ化された『四畳半神話大系』では、斬新でカラフルなビジュアルと、まばゆいばかりの独創的な構成が絶賛された。本作でも、その色に満ちた映像表現を披露するとともに、いくつかの場面の転換においては編集による偉業を成し遂げている。また、背景描写においては、日本の美的感覚やモチーフと、シルヴァン・ショメ監督の代表作『ベルヴィル ランデブー』に敬意を表すようなフランスアニメーション技術が、絶妙に溶け合っている。

音楽は筆者が思っていたよりヨーロッパ風の曲調の音楽が用いられていた。ディズニーランドを連想させるワルツ、木管楽器による粋な楽曲、タンゴなどが取り入れられているが、個人的にはこれらの音楽は全編にわたって登場するダルマや桜の花びら、祭りの提灯といった日本らしいモチーフとは少々相容れないように感じた。

キャラクターに関しては、黒髪の乙女は好感の持てる性格で描かれているものの、彼女は常に願望や興味、観察の対象であり、決して主体として描かれない。全編にわたってかなり不安になるような男性目線が貫かれており、その不気味な意味合いに目がいかないようビジュアル面で見せることで、より顕著になっていた。

たとえば、先輩は平然と彼女をカメラで監視することに同意し、自分に好意を持つよう彼女を心理的に操作するために映像データを利用する(そしてその行動は功を奏す)。先輩の分別のない行動の軽率さは描かれながら、それによる影響は描かれておらず、ある種の転覆が見られた。

以上の問題を除いては、声優たちの演技も申し分なく、たとえそれぞれキャラクターのバックグラウンドが多少見えづらいとしても、雑多なキャラクターの集まりを楽しむことができた。冒頭の飲み比べの章(同作は3部構成になっている)では、アクシデントという偶然性とも歩調を合わせながら、映画『アリス イン ワンダーランド』のようなシュールレアリスムを感じる見事な掛け合いが描かれている。

興味深いことに、ちょうどペースが停滞し始めたころに、物語は突然ブロードウェイのような本格的なミュージカルの領域に突入する。野心的な試みで好感は持てるが、ボーカルのアレンジは少々粗く性急さを感じさせ、キャラクターたちを上手く発展させていないために余計であるようにも見えた。とはいえ、アニメ『進撃の巨人』のファンにとって、神谷浩史(同作でリヴァイ役を演じる)がミュージカル楽曲を歌唱するのを聞けるのは大きな楽しみであるに違いない。

全体的に見ると、第1章において惜しみなく最高の手腕を発揮している作品と言える。映像としては観客の目を引くが、映画体験としてはキャラクターが薄っぺらく極めて退屈に思えるかもしれない。ストーカーを主人公にし、その行為を正常であるかのように見せることによって、問題のある脚本を一層複雑にしていた。

公式サイトはこちら

原文:ジョージ・アート・ベイカー
翻訳:小山瑠美

2017年4月7日(金)全国ロードショー

©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

リリースの詳細

  • Rated:15
  • 公開日:2017年10月4日水曜日
  • 上映時間:92 分

出演者と制作者

  • 監督:Masaaki Yuasa
  • 出演:
    • Gen Hoshino
    • Kana Hanazawa
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