Get us in your inbox

SAINT LAURENT/サンローラン

  • 映画
  • 3 5 つ星中
  • お勧め
Saint Laurent
広告

タイムアウトレビュー

3 5 つ星中

電球ひとつを交換するのに何人のファッションデザイナーが必要だろうか。このフランス映画は、大胆な表現をちりばめながらも常にチャーミング(だが自由奔放すぎで、長過ぎたりもする)。弱々しく、浮き世離れしたギャスパー・ウリエル演じるイヴ・サンローラン。上半身むき出しの映像を多用したり、異様な裸体像を晒し、貧弱な体型だったイヴ・サンローランのイメージを強調している。フランスで最も崇められるファッションデザイナーのひとり、その人物の伝記映画を作るのに、何人の映画監督が必要となるだろうか。2014年時点でその答えは2人だ。まずはジャリル・レスペール監督の『イヴ・サンローラン』があり、そこに『SAINT LAURENT/サンローラン』が加わった。今作は存命中のピエール・ベルジェの正式認可を得ておらず、いわば非公式バージョンだ。サンローラン本人は2008年に逝去している。

『SAINT LAURENT/サンローラン』は、先行作品のようにベルジェとサンローランとの関係性に踏み込もうとはしていない。しかしサンローランの快楽主義についてはより赤裸々に描いている。パリの街の茂みに隠れての冒険、ドラッグを使ってのどんちゃん騒ぎ(床にこぼれたドラッグを誤って舐めた愛犬が命を落とす結果となった)、そして意識を失ったサンローランが建設現場に置き去りにされ、死にかけているところをベルジェに発見されるシーン。映画の脚本、監督はベルトラン・ボネロ(映画『ポルノグラフ』『メゾン ある娼館の記憶』)だ。ボネロはレスペールと比べると決まりごとは守らない監督だ。しかしこの映画で描かれているサンローランの才能、美意識、性的嗜好、自己破滅、そしてベルジェとジャック・ド・バシャール (ルイ・ガレル) という2人の恋人との三角関係などは、お馴染みのテーマとも言える。ボネロは1960年代後半から1970年代にかけてを重点的に取り扱うが、サンローランの後半生の現実をこちらに突きつけてくるシーン(サンローランを演じているのはヘルムート・バーガー)を織り交ぜてもいる。しかし『イヴ・サンローラン』とは異なり、1960年代後半よりも昔へと遡っていくことはない。サンローランがどのように成功を収めたかということよりも、自分の成功とどのように付き合っていったか、そちらの方に重点を置いている。

今作の時系列は入り組み、編集は遊びに満ちており、音楽の使い方も巧みで、観客の想像力を大いにかき立てることに成功している。その一方で、ストーリーがあらぬ方向へと行ってしまう。終わりが近づくにつれて、話が次第に停滞していくのだ。いくつか目立つシーンはあるが(ベルジェとアメリカ人投資家との商談、2人の関係が終わった後でサンローランがジャックに宛てて書いた手紙、クラブ遊びやパーティのシーンなど)。同じ話が繰り返される感覚があるので、観客は、もっと短かくまとめてくれと願わずにはいられない。主人公のサンローランを含めて、全体的に登場人物の性格付けが淡く、人物像が時としてファッションモデルと同じくらい痩せてしまっているのも問題だ。これは女性について顕著で、サンローランのミューズであり親友でもあったルル(レア・セドゥ)などは、特に素っ気ない扱いしか受けていない。

主題として才能よりも欲望に重きを置いている。もっとも、サンローランの才能面を讃えるために、スケッチ、デザイン、フィッティング、ファッションショーといったシーンもそれなりに盛り込まれてはいる。しかしサンローランのドレスとは異なり、この映画はしっかりとしたフォルムを欠いている。つまり、ひとつの視点を強引に押しつけて来ないという点では良いのだが、裏返すと、本当に言いたいことは何なのかが、見えてこないということだ。映画の後半で『リベラシオン』紙の編集部のシーンが登場するのだが、そこでは監督のボネロ自身がジャーナリストを演じている。そのジャーナリストは、1977年にサンローランが死亡したと誤った推測をしてしまう。これは非常に象徴的であるように感じられる。つまり、映画『SAINT LAURENT/サンローラン』は主人公についてあらゆる角度から迫って行くが、決して核心に到達することがないのだ。

公式サイトはこちら 

2015年12月4日(金)TOHO シネマズシャンテほか全国ロードショー

テキスト:DAVE CALHOUN
 
(C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

出演者と制作者

  • 監督:Bertrand Bonello
  • 脚本:Bertrand Bonello, Thomas Bidegain
  • 出演:
    • Léa Seydoux
    • Gaspard Ulliel
    • Brady Corbet
    • Louis Garrel
    • Jérémie Renier
広告
関連情報