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Naomi

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ライター

アート デザイン 工芸 民藝 ミュージアムにまつわるインタビュアー・ライター・企画編集・コラムニスト

Articles (2)

東京、4月から5月に行くべきアート展

東京、4月から5月に行くべきアート展

タイムアウト東京 > カルチャー > 東京、4月から5月に行くべきアート展 東京の人気ギャラリーや美術館で開催するアート展を紹介。4月から5月にかけては、3年1度の都市型芸術祭「横浜トリエンナーレ」、国立西洋美術館初の現代美術展、話題を集めた「大吉原展」など注目の展示が目白押し。ぜひチェックしてほしい。 関連記事『2024年、見逃せない芸術祭8選』『「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」でしかできない9のこと』

東京、2023年に行くべきアート展

東京、2023年に行くべきアート展

タイムアウト東京 > カルチャー > 東京、2023年に行くべきアート展 江戸時代の日本美術から印象派の傑作まで、2023年もさまざまな展覧会が行われる。ファッション界からは「ディオール」や「イヴ・サンローラン」のようなハイブランドを特集した大規模な展示、「愛」をテーマにした「ルーヴル美術館」のコレクション展などだ。 そのほかにも、今年はアンリ・マティスやデイヴィッド・ホックニー、アントニ・ガウディなど巨匠たちのアートが堪能できる。 アートは実際に観ると感動もひとしお。ぜひ、美術館やアートギャラリーに足を運んでほしい。ここでは、カレンダーに書き込んでおくべき展示を紹介しよう。 関連記事『東京、無料で入れる美術館・博物25選』『東京のベストパブリックアート』

News (24)

待望の日本初個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が森美術館で開幕

待望の日本初個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が森美術館で開幕

六本木の「森美術館」で、「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が開幕した。会期は2024年9月1日(日)まで開催されている。 本展は、世界で注目を集めるブラックアートの魅力に迫ると同時に、陶芸や建築、人々が集うアートスペースの立ち上げ、映像や音楽など、シアスター・ゲイツ(Theaster Gates)がこれまでに手がけてきた多角的な実践を幅広く紹介。手仕事への称賛、「民藝(みんげい)」への共感や思い、人種や政治への問い、文化の新たな融合をうたう現代アートの意義など、重層的に存在するさまざまなテーマや考え方を提示しており、非常に見応えのある内容だ。 Photo: Keisuke Tanigawa展示室エントランス 民藝が生まれた日本で待望の初個展 ゲイツは、アメリカ・シカゴ生まれ。現在もシカゴのサウスサイド地区を拠点に活動する現代美術家だ。陶芸作品や彫刻を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザインなど、メディアやジャンルを横断する活動で、国際的に高く評価されている。 アイオワ州立大学と南アフリカのケープタウン大学で、都市計画や陶芸、宗教学、メディアアートなどを学んだゲイツは、1999年に初めて愛知県常滑市に滞在。2004年には海外の陶芸家が地域の人々や作り手と交流するプログラム「とこなめ国際やきものホームステイ(IWCAT)」に参加し、現在まで20年以上にわたって、常滑市の陶芸作家らの協力の下で作陶している。 国際芸術祭「あいち2022」で展示した、自身の制作拠点である常滑市の「丸利陶菅」の建物を使った作品「ザ・リスニング・ハウス」も記憶に新しい。 Photo: Keisuke Tanigawaゲイツ(中央)と、常滑市長の伊藤辰矢(左)、常滑市キャラクターのトコタン(右) 本展の印象的なタイトル「アフロ民藝」とは、アメリカで1950〜60年代に起こった公民権運動「ブラック・イズ・ビューティフル」と、1926年に日本で柳宗悦らが提唱した「民藝(民衆的工芸)」の哲学とを融合させ、ゲイツ独自の新しい美学を表現した造語。すでに度々、展覧会のタイトルに用いられてきたが、民藝が生まれた日本での、そしてアジア最大規模の個展の開催は初めてだ。 なお、本展は音声ガイド(日英バイリンガル)が無料で利用できる。会場の「QRコード」を読み取るだけで、自身のスマートフォンとイヤホンで、ゲイツ自身や、展覧会の企画を担当した徳山拓一(森美術館アソシエイトキュレーター)と片岡真実(森美術館館長)による解説が楽しめるので、ぜひ活用してほしい。 常滑の陶工や酒蔵、京都の老舗企業ともコラボレーション 本展は「神聖な空間」「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」「ブラックネス」「年表」「アフロ民藝」の5つのセクションで構成。これまでの代表作のみならず、本展のための新作を含む日本文化と関係の深い作品などを、圧倒的な物量で紹介している。 最初の展示室「神聖な空間 Shrine」は、ゲイツが考える「美の神殿」をイメージしたインスタレーション。自身の作品とともに、古今東西の尊敬する作り手や影響を受けてきた作家の作品などが展示されていた。 床に敷き詰められているのは、常滑市で制作された1万4000個もの黒いれんが。これはゲイツの新作「散歩道」だ。また、壁に無数に取り付けられた黒い棒状の作品は、創業300年以上の京都の老舗「香老舗 松栄堂」の調香師と作った、特別な「常滑の香り」の香。ここから漂う香りが、空間をより印象的に演出している。 なお、ミュージアムショップでは本展の

100点以上が初公開、奇想のガラス作家エミール・ガレの回顧展

100点以上が初公開、奇想のガラス作家エミール・ガレの回顧展

美しい曲線と鮮やかな色彩に、草花や昆虫などのデザインで、ガラス工芸をアートへと高めたフランスのガラス作家、エミール・ガレ(Emile Galle、1846~1904年)。現在、「渋谷区立松濤美術館」で開催されている企画展「没後120年 エミール・ガレ展 奇想のガラス作家」は、これまで紹介される機会の少なかった国内の個人コレクターや私設美術館が所蔵する貴重な作品を中心に、ガレの創作の足跡をたどる内容だ。 Photo: Keisuke Tanigawa左から「花器(サイネリア)」(1890~18-94年ごろ頃、個人蔵)、「花器(ケマンソウ)」(1890年ごろ、個人蔵) 開幕を前に行われた報道関係者向けの内覧会では、本展を監修した美術史家の鈴木潔が、ガレの生涯と手がけた作品の数々を解説。ガレの没後120年を記念した本展について、「最初期から晩年までの作品約120点を展示していますが、うち100点以上が初公開です。これまで開催されてきたさまざまなガレの展覧会の図録や、専門書にも載ってないような作品ばかりなので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです」と語った。 Photo: Naomi本展を監修した美術史家の鈴木 Photo: Naomi2階展示室 マルチクリエーターであり敏腕経営者でもあったガレ ガレは、19世紀末のヨーロッパで花開いた装飾芸術運動「アールヌーヴォー」の旗手として知られる工芸家だ。フランス北部・ナンシーに生まれ、幼少期から歴史や語学、文学、哲学、植物学と、非常に幅広い分野に関心を持つ。 ドイツで素描やデザインを学んだのち、ドイツとの国境近くに位置し、ガラス産業が盛んなフランスのマイゼンタールでガラス製造の修行を積む。1877年、家業であるガラス・陶器製造販売の経営を31歳で引き継いだ。その後、地元のナンシーに自身のガラス工場を新設するまでの27年間、自社で販売する全てのガラス製品は、マイゼンタールで製造していたという。 Photo: Naomi左から「花器(アネモネ)」「台付花器(オモダカ)」(1980~1900年ごろ、個人蔵)   監修した鈴木の言葉を借りれば、ガレは類まれなる美的センスと商才をかけ合わせた「産業芸術家」として、腕利きのガラス職人らとともに、特注のオーダー作品や少数限定の高級品から、大量生産による廉価品まで手がけていったという。本展は、その足跡を追いながら、多様な作品の数々を楽しめる構成だ。 地下1階の展示室では、中世やルネサンス、ロココの美術様式から着想を得た初期作や、日本や中国といった東洋の文化から影響を受けた作品を展示。ガラス工芸に革命を起こしたガレの作家としての顔のほか、経営者や植物学者としての顔も紹介している。     Photo: Keisuke Tanigawa地下1階展示室 Photo: Keisuke Tanigawa「角鉢(カエル、ハス)」(1880~-1884年ごろ、松江北堀美術館蔵) Photo: Keisuke Tanigawa「装飾扇」(いずれも1878年ごろ、松江北堀美術館蔵) ガレは、父親から会社を引き継いだ翌年、1878年に初めて「パリ万国博覧会」へ参加し、青みを帯びた透明の素地が特徴の「月光色ガラス」の作品を発表。大きな話題となり、世界的な注目を集めるきっかけとなった。 続く1889年のパリ万博でも、新たに開発したガラス素地や技法の作品を出品し、ガラス部門でグランプリを受賞。そして3度目の参加となった1900年のパリ万博では、ガラス部門に加え、家具部門でもグラ

国立新美術館で5年ぶりの自主企画展「遠距離現在  Universal / Remote」

国立新美術館で5年ぶりの自主企画展「遠距離現在 Universal / Remote」

乃木坂の「国立新美術館」で、同館5年ぶりの自主企画展「遠距離現在 Universal / Remote」が開幕した。タイトルの「遠距離現在」とは、資本と情報が世界規模で移動する、現代の状況を踏まえた造語だ。 企画構想の発端は、2020年に突如始まったパンデミックの真っただ中にさかのぼる。アジアや欧米、北欧など、国際的に活躍する現代アーティスト8人と1組の作品を通して、社会の在り方や人々の暮らし、仕事など、あらゆる場に及ぼした影響と、つまびらかにされた諸問題を改めて我々に問いかける展覧会だ。 パンデミックによって起きたことを忘れないために 覚えているだろうか。新型コロナの感染防止対策として取り入れられていたマスクの着用規制が、個人の判断に委ねられたのがいつだったか。規制が緩和されたのは、2023年3月13日。数年にわたり、あれほど強烈な抑制と変化を強いられていたにもかかわらず、たった一年で私たちの記憶はあっという間に「今」に上書きされ、薄れている。 本展には30分を超える映像作品も多い。文字で記録として書き残される以上に鮮烈に、当時の私たち一人一人ひとりの記憶を思い出すきっかけとなるだろう。できるだけ時間に余裕を持って会場へ足を運び、それぞれの作品をじっくり体感してみてほしい。 Photo: Kisa Toyoshima左から館長の逢坂恵理子、特定研究員のユン・ジヘ、出展作家のティナ・エングホフ、エヴァン・ロス、井田大介、地主麻衣子、木浦奈津子 開幕に先立って開催されたプレスカンファレンスで、国立新美術館の逢坂恵理子館長は、「参加アーティストは1950年代以降に生まれた世代で、日本人アーティストと企画した研究員は80年代生まれです。彼らの作品はいずれも、デジタル化やAI(人工知能)などで便利になる一方、実態のあるつながりが希薄になりつつある今、見えにくい実態や矛盾をとらえ、鋭く提示しています」と紹介した。 本展の企画を担当したユン・ジヘ(尹志慧)特定研究員は、企画を構想した背景として「マスク着用の規制が解除されてすぐの頃から、コロナ禍を急速に忘れていく自分自身に危機感を抱きました。社会の矛盾や不条理、感じ取った孤独や日常の大事さなどを絶対に忘れたくなかったのです」と話した。 Photo: Kisa Toyoshima特定研究員のユン・ジヘ 加えて、タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」の由来について、「本来、『(どんなテレビにも使える万能な)ユニバーサルリモコン』を意味するuniversal remoteという単語を、分断の象徴であるスラッシュで区切り、万能性にくさびを打ちました。ユニバーサルな世界と、遠隔・非対面のリモートで点在する個々人の暮らしを、露呈させるような意図を込めています」と解説した。 ユニークなミニガイドが現代アートを身近にする 現代アートに対して、ぱっと見では分からない、理解しづらい、というイメージを抱く人も多いだろう。本展では、その心理的なハードルが少しでも低くなるようにと、リーフレット「〇才のためのミニガイド」を展示室の入り口で無料配布している。 「作品を鑑賞しながら、一人一人にとっての『距離』とは何かを考えるヒントに」と、同館の教育普及室が編集。最初の見開きには、ここ12年の世界の出来事と自身を振り返るワークシートとともに、コロナ禍の前後で世界の見え方は変わっただろうか、との問いかけが書かれている。 小学校高学年ぐらいの児童でも理解できるよう、漢字には読み仮名が振られており、平易な表現で展示室や

ムンクだけじゃない、北欧の絵画が一堂に会する「北欧の神秘」展

ムンクだけじゃない、北欧の絵画が一堂に会する「北欧の神秘」展

西新宿の「SOMPO美術館」で2024年6月9日(日)まで、企画展「北欧の神秘― ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」が開催されている。 インテリアやプロダクトなどのさまざまなデザイン、トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson)の物語「ムーミン」など、日本人にとって馴染み深い北欧の国々。本展は、「ノルウェー国立美術館」「スウェーデン国立美術館」「フィンランド国立アテネウム美術館」の3館から、えりすぐりの絵画コレクションが来日した、国内初の北欧絵画展だ。 Photo: Keisuke Tanigawaロベルト・ヴィルヘルム・エークマン「イルマタル」(1860年)、フィンランド国立アテネウム美術館蔵 Photo: Keisuke Tanigawa1章の展示風景   開幕に際して、企画を担当したSOMPO美術館の武笠由以子主任学芸員は、「ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの国立美術館のご協力で、各国を代表するような魅力的な作家の作品が多数来日しました。本展をきっかけに、北欧の自然、神話や民話など、豊かな文化の中で育まれた作品をじっくりご覧いただきたいです」とあいさつした。 また、来日したスウェーデン国立美術館の展覧会部門ディレクター、パール・ヘードストゥルムは、「日本で北欧の絵画を多数紹介できる機会を非常にうれしく思います。ご自身のお気に入りの作品を楽しみながら見つけてみてください」とコメントした。 Photo: Keisuke Tanigawa「SOMPO美術館」主任学芸員の武笠由以子(左)と 「スウェーデン国立美術館」展覧会部門ディレクターのパール・ヘードストゥルム(中央) 北欧が誇る3つの国立美術館 まずは簡単に、3つの国立美術館について紹介しておきたい。 3館の中で最も古い、1837年に開館したのが「ノルウェー国立美術館」だ。首都オスロに位置しており、絵画や建築、デザインなど、古代から現代美術まで、約40万点ものコレクションを誇る。2022年にリニューアルオープンし、常設展だけでも約6500点を展示する、北欧最大規模の美術館となった。 Photo: Keisuke Tanigawaニコライ・アストルプ「ユルステルの春の夜」(1926年)、ノルウェー国立美術館蔵 ノルウェー国立美術館の開館から約20年後の1866年、スウェーデンの首都ストックホルムに開館した「スウェーデン国立美術館」は、王室が収集したコレクションを中心に、16~19世紀の美術や、現代に至るまでのデザインや建築、工芸など、約70万点もの所蔵品を扱う。人々の暮らしを描いたカール・ラーション(Carl Larsson)の壁画も有名だ。 Photo: Keisuke Tanigawaマルクス・ラーション「滝のある岩場の景観」(1859年)、スウェーデン国立美術館蔵 そして1888年に開館した「フィンランド国立アテネウム美術館」は、国立の美術アカデミーや芸術大学の建物として首都ヘルシンキに設立された。フィンランドの美術作品を中心に約3万点のコレクションを所蔵するほか、2009年からは日本の浮世絵も展示している。 Photo: Keisuke Tanigawaヴァイノ・ブロムステット「冬の日」(1896年)、フィンランド国立アテネウム美術館蔵 北欧ならではの自然と歴史を巡る 本展では、これら3つの国の美術館ごとに展示するのではなく、「自然」や「都市」などのテーマに沿って横断的に配置。19世紀から20世紀初頭の国民的な画家たちが描いた約70

有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開

有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開

西早稲田のコンテンポラリーギャラリー「ザ ミラー(THE MIRROR)」で、企画展「春の音色を聴く〜有元利夫 in 松川ボックス〜」が2024年5月18日(土)まで開催されている。 1985年2月、病により38年の生涯を閉じた有元利夫(ありもと・としお)は、わずか10年ほどの作家人生ながら唯一無二の世界を描き、没後40年がたとうとする今でも多くの人を魅了し続けている。作品がまとまって展示される機会が少ない中、有元自身も大切に向き合っていたという版画の連作を名建築の贅沢な空間で鑑賞できる、またとない機会だ。 Photo: Keisuke Tanigawa「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)より「秋」 実現しなかったアメリカ展のための作品群が待望の初公開 有元は、1946年岡山県津山市生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科に在学中、イタリアでルネサンス期のフレスコ画と出合い、ピエロ・デラ・フランチェスカ(Piero della Francesca)の作品に魅せられる。日本の仏画にも共通する美を見いだそうと、岩絵具や箔(はく)を用いた独自の表現と技法を追求した。 会社員を経て画業に専念すると、1978年に「花降る日」で「第21回安井賞特別賞」を、1981年には「室内楽」で「第24回安井賞」を受賞。安井賞は「画壇の芥川賞」とも呼ばれた具象絵画の新人賞であり、有元は数々の作品を精力的に発表し続けた。日本洋画界から大きな期待と注目を集めていた矢先の訃報は、本当に悔やまれてならない。 Photo: Keisuke Tanigawa「3 pieces de JEUNES FILLES :「3人の少女」(1983年)シリーズ 本展で展示されている作品は、いずれも1983年に制作されたリトグラフやエッチング。実は、アメリカでの展覧会のために準備されていたものだという。しかし有元が体調を崩したため開催はかなわず、それから一度も展示されることなく大切に保管されてきた。40年もの時を経ての、待望の初公開だ。 Photo: Keisuke Tanigawa「NOTEBOOK 1983」(1983年) カラーリトグラフ4点の連作「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)の一つで、春をテーマに描かれたものが、本展のメインビジュアルに用いられている。バロック音楽をこよなく愛した有元。言わずもがな本作は、アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi)のバイオリン協奏曲「四季」になぞらえた連作だろう。まるで刷り上がったばかりのような淡く美しい発色には目を見張る。柔らかさと静ひつさが共存する何とも穏やかな作品だ。 Photo: Keisuke Tanigawa「8 pieces d’ARLEQUINES:「8人のアルルカン」シリーズ(1983年、左・中)、「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)より「春」(右) 会場にBGMとして流れていたバロック音楽の楽曲も、耳にとても心地良かった。本展の会期中、5月12日(日)には、「春の音色を聴く」の展覧会名にふさわしく、バロック音楽の演奏会も予定されている(事前予約制・有料)。 また、筆者が取材に訪れた日はあいにくの空模様だったが、雨音も有元の作品によく似合っているように感じられた。大きな窓のある空間なので、訪れる日の天候や時間帯によって作品の印象が変化するのは、個人の住宅のようなギャラリーならではの魅力だろう。 Photo: Ke

アピチャッポン・ウィーラセタクンの新作映像が谷中で公開

アピチャッポン・ウィーラセタクンの新作映像が谷中で公開

谷中のコンテンポラリーアートギャラリー「スカイ ザ バスハウス(SCAI THE BATHHOUSE)」で、アピチャッポン・ウィーラセタクン(Apichatpong Weerasethakul)の個展「Solarium」が2024年5月25日(土)まで開催中だ。同ギャラリーでの個展は7年ぶり、5回目の開催だという。 Photo: Naomiスカイ ザ バスハウス ウィーラセタクンは1970年、タイ・バンコク生まれの映画監督・脚本家であり芸術家。現在はチェンマイを拠点に活動している。タイで建築を学び、シカゴ美術館附属シカゴ美術学校で映画制作の修士課程を修了。1990年代より美術と映画の両分野で活動し、2010年に監督した映画「ブンミおじさんの森」は、タイ初となるカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞している。2024年3月には、東京・台場の「日本科学未来館」で開催された「シアターコモンズ'24」で、VR作品「太陽との対話(VR)」を上演したことも記憶に新しい。 ホラー映画から着想した新作インスタレーション 本展のタイトルでもある新作の映像インスタレーション「Solarium(ソラリウム):Tokyo Sunrise Version」(2024年)は、自身が幼少期に夢中になったホラー映画に着想を得たものだ。ギャラリーの奥に作られた暗い空間の中央には、ホログラフフィルムが貼られた映写用のガラスパネルが置かれ、両サイドのプロジェクターから2チャンネルの映像が映し出されている。 盲目の妻を救うため、患者の眼球を盗んだ狂気の医師(マッドドクター)を描くタイ映画「The Hollow-eyed Ghost」(1981年)のシーンを再現するように、暗闇の中で自身の眼球を探しさまよう男の姿が映し出されるも、やがて日の出の光によって彼の姿は破壊されてしまう。そして男の亡霊が浮かび上がり、鑑賞者のいる物理空間を浮遊し始める。備え付けのヘッドホンを身に着けると、より一層不気味さが増す。 Photo: Naomi「Solarium:Tokyo Sunrise Version」(2024年) 本作品についてウィーラセタクンは「亡霊は、映画監督のように、いつも光を体験するための装置を探しています。このタイトルは、この夢のような状態から逃れられず、自ら作り出した日光浴室(ソラリウム)に永遠に閉じ込められ、日の出の暖かな光を待ち望む亡霊を暗示しているのです」とコメントしている。 Photo: Naomi「Solarium:Tokyo Sunrise Version」(2024年) Photo: Naomi本展のDM 初公開のドローイングや写真作品も 本展のメインビジュアルに用いられているのは、ウィーラセタクンによるドローイングだ。やや厚みのある紙に黒いインクで描かれており、今回初めて一般に公開された。夢やスケッチ、ランドスケープやボディースケープを描き出したモノクロームの表現は、影や曖昧さ、映画のフレームといった主題に、これまで作家がいかに強い関心を抱いてきたかを物語っているようだ。 Photo: Naomi展示風景 Photo: Naomi展示風景 また、さまざまな時間の表現を集めた「Boxes of Time」(2024年)シリーズも併せて展示されている。5つのアクリルボックスには、2分、1時間、7時間、24時間、1年と、時間を凝縮して撮影された52枚の写真が収められている。それらを通して移動と変化の感覚を伝えることで、時間がどのように体験され知

歴史の「光」と「闇」を知る、話題の「大吉原展」が開幕

歴史の「光」と「闇」を知る、話題の「大吉原展」が開幕

上野の「東京藝術大学大学美術館」で、企画展「大吉原展」が開催中だ。江戸時代、徳川幕府公認の下で江戸の町に作られた遊郭「吉原」は、明治時代まで約250年もの長きにわたって確かに実在していた。しかし、人々の売買春が経済基盤だった事実ゆえ、吉原を真正面からテーマにした企画展は、これまでほぼ開催されてこなかった。 そんな中で本展は、5年という長い準備期間をかけ、東京や千葉、京都など、国内約30の美術館・博物館と、吉原があった台東区の「台東区立下町風俗資料館」、貴重な浮世絵や肉筆浮世絵を多数所蔵する「大英博物館」などの海外施設、多くの研究者や作品の所蔵者の協力によって実現した、非常に稀有(けう)な機会だ。 数多の名作浮世絵や絵画が示す「文化の発信地」としての顔 吉原や遊女たちの存在は、浮世絵をはじめとする美術や日本文学、落語の廓話(くるわばなし)や歌舞伎の演目といった伝統芸能に現代でも当たり前に登場し、昨今は漫画やアニメの題材になることも少なくない。 しかし、吉原という場所がなぜ必要とされてどのような歴史をたどったのか、どんな人々が生きて何が起きていたのかを、我々は本当に知っているだろうか。 Photo: Keisuke Tanigawa勝川春潮「吉原仲の町図」(1789~1801年ごろ)、大英博物館蔵、通期展示 本展で展示される資料は、4つの会場で前後期合わせて200点を超える。膨大な資料を通して、多様な文化が育まれた事実だけでなく、経済基盤として行われていた売買春や遊女たちを取り巻く事実についても真摯(しんし)に伝え、吉原の歴史を丁寧にひもとく試みがなされている。 冒頭、第1会場の「吉原入門」では、吉原創設の背景やその全体像を描いた絵画のほか、江戸の庶民がめったに会うことのできなかった高級遊女たちの一日を描いた、喜多川歌麿(1753~1806年)の揃物(そろいもの)などを展示する。 Photo: Keisuke Tanigawa喜多川歌麿「青楼十二時 続(せいろうじゅうにとき つづき)」(1794年ごろ) そもそも日本で最初に公認の傾城町(けいせいまち)、つまり遊郭ができたのは1585年のことだ。江戸幕府以前の豊臣秀吉が天下を治めていた時代から、すでに大坂や京都などには存在していた。 新たに幕府が開かれると、都市整備工事のため各藩から大量の労働者が派遣されたり、商売を始めようとする男性が単身で移住したりと、江戸市中は極端に男性が多くなる。そこで、市中に散在していた遊女屋が話し合い、治安維持などのため、幕府へ公認の傾城町を設置するよう訴えたのだ。その5年後の1618年、現在の日本橋人形町3丁目付近に設置許可が出たという。 ちなみに「吉原」の名前は、湿地帯だったこの地域一体に、植物のヨシやアシ葦が茂っていたことに由来する。 Photo: Keisuke Tanigawa歌川豊春「新吉原春景図屏風(しんよしわら しゅんけい ずびょうぶ)」(1781~1801年ごろ)個人蔵 、通期展示 それから約40年後の1657年、吉原は江戸の北に位置する浅草寺の裏手辺りへと移転・拡大した。第2会場では、武家や大名らの遊興の場だった1600年代後半から1700年半ばの様子や、遊女の格式や制度の変化、芸者や格の高い大見世(おおみせ)を支えるさまざまな職業などが登場。大衆化とともに隆盛を極めた1700年後半、そして明治期以降に衰退・廃止されるまでの吉原の様子を、多様な資料で紹介する。 展示室には、初期の風俗画や浮世絵を手がけた菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)や英一蝶

若き北斎が描いた役者絵や舞踊「歌舞音曲鏡 北斎と楽しむ江戸の芸能」展

若き北斎が描いた役者絵や舞踊「歌舞音曲鏡 北斎と楽しむ江戸の芸能」展

両国の「すみだ北斎美術館」で、企画展「歌舞音曲鏡(かぶおんぎょくかがみ)北斎と楽しむ江戸の芸能」が開幕した。 本展では、90年にわたる生涯をひたすら画業に専念した葛飾北斎(1760~1849年)が、20代のころに描いていた役者絵や、歌舞伎、浄瑠璃にまつわる作品、20年越しの観劇の感想をつづった文章などを展示。北斎の作品群や当時の出版物などを通して、今も続く伝統芸能がいかに江戸の人々に愛されていたかを実感できる展覧会だ。 北斎の初期作から江戸時代の歌舞伎に触れる 「世界で最も有名な海の絵」と言っても過言ではない、北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(ふがくさんじゅうろっけい かながわおきなみうら)」。実はこの作品、北斎が70歳を過ぎてから描かれたことが分かっている。 「冨嶽三十六景」シリーズを発表する約50年前、19歳で浮世絵師の勝川春章(かつかわ・しゅんそう)に入門した北斎は、翌年から勝川春朗(かつかわ・しゅんろう)と名乗り、勝川派の絵師として第一歩を踏み出した。 展覧会のテーマである芝居になぞらえ、1章ならぬ1幕目「北斎が役者絵を描いていた頃」では、当時発表した歌舞伎の役者絵を、前後期で9点ずつ紹介。北斎の初期作がまとまって展示されるのは貴重な機会だろう。役者絵は、師匠である春章が得意としたジャンルでもある。 Photo: Keisuke Tanigawa葛飾北斎「四代目松本幸四郎 よどや手代新七」(1786年、前期展示) 特に今回が初公開の「三代目瀬川菊之丞 白拍子(しらびょうし)」(1783年、後期展示)は必見。現代でも人気の歌舞伎の演目「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」の主人公・花子を演じた女形の人気役者を描いた華やかな作品だ。 また、当時の芝居小屋の内部を、浮絵(うきえ)と呼ばれる遠近法を取り入れて描いたものや、芝居小屋があった現在の日本橋人形町や東銀座の町並みを描いた作品も展示。多くの観客や役者の声が聴こえてきそうな、にぎわいと活気あふれる描写がなされている。 Photo: Keisuke Tanigawa葛飾北斎「東都勝景一覧」下 境町(1800年、通期展示) Photo: Keisuke Tanigawa葛飾北斎「浮絵元祖東都歌舞伎大芝居之図」(1781-89年、前期展示) 音曲や浄瑠璃にまつわる作品も幅広く手がける 続く2幕目「北斎と江戸の芸能」では、見慣れない上下が反転したような不思議な印刷物、「刷物(すりもの)」が複数点展示されている。これは現代で言う少部数のZINEのような、非売品の私的な印刷物で、大衆が手軽に購入できた大量生産の浮世絵とは異なるものだ。 北斎は35歳ごろに勝川派から独立。以降、20代で描いていた役者絵は確認されていないが、芝居や芸能に関連する作品は描き続けていた。展示されている刷物は、音曲(おんぎょく)のおさらい会や襲名披露会の案内状として作られたもの。音曲とは、三味線で唄う端唄(はうた)や小唄(こうた)、都々逸(どどいつ)などの総称で、現代でも寄席などで楽しめる。 Photo: Keisuke Tanigawa葛飾北斎「屋形船羽根田丸」(制作年未詳、前期展示) 本展では、大判の刷物が完全な形で多数展示されている。実際には上下で2つ折りし、さらに左右で3つ折りした、正方形に近い形状だった。本展のリーフレットがまさにこの形を踏襲して制作されているので、1階のミュージアムショップで手に取ってみてほしい。 ここまで多数の摺物が展示されるのは、非常にまれな機会だ。もともと少部数で刷

「アートフェア東京2024」でしかできない5のこと

「アートフェア東京2024」でしかできない5のこと

日本最大級の国際的なアートイベント「アートフェア東京2024」が、今年も有楽町の「東京国際フォーラム」でスタートした。国内各地のギャラリーが集結し、今手に入れたい注目作家の作品を展示・販売する。また、石川県の「金沢卯辰山工芸工房」をはじめとする工芸の作品、古美術や骨董(こっとう)の老舗も参加。多様なジャンルのアートを網羅しているのも、本フェアの特徴だ。 本記事では、2024年の「アートフェア東京」で特に見逃せない5つのポイントを紹介しよう。 Photo: Naomi 1. キュレーションブース「The Project YUGEN」を楽しむ。 間もなく20周年を迎える「アートフェア東京」において、初めての取り組みとなるのが、「ロビーギャラリー」エリアで開催される「The Project 幽玄/ YUGEN」だ。 Photo: Naomi ロンドンを拠点にキュレーター・ライターとして活動するタラ・ロンディ(Tara Londi)がキュレーションを担当。パリの「A2Z Art Gallery & Radicants」など、ギャラリーの枠を越え、デヴィッド・ヌーナン(David Noonan)、ドミニク・ラクロシュ(Dominique Lacloche)、枝史織らの作品を展示している。 例えば、メキシコシティとニューヨークに拠点を置く現代アートのギャラリー「JO-HS」から紹介された、ニール・ハマモト(Neil Hamamoto)のカラフルな大型作品は、よくよく観察すると、プライスシールの集積によるもの。ポップな印象の裏側に、資本主義や大量消費へのアンチテーゼを垣間見るようだった。 Photo: Naomiニール・ハマモトの作品群 Photo: Naomiニール・ハマモト「Untitled ( triptych ) 」(2024)より 1993年ニューヨーク生まれのハマモトは、スタンフォード大学で機械工学や製品設計などを学んだ経歴を持ち、彫刻、絵画、写真、インスタレーションなどの作品を制作・発表。2018年からは、ブルックリンを拠点とする非営利のアート団体「WORHLESS STUDIOS」を自ら立ち上げ、新進アーティストのためのワークスペースを提供するなど、ユニークな活動も行っている。 このほかにも、おそらく日本で初めて紹介されているであろう作家たちの作品群が並んでいる。日本語の通訳スタッフも常駐しているので、ギャラリストらとコミュニケーションを取ってみてほしい。 2. 絵画、彫刻、工芸、浮世絵、骨董に古美術、多様なジャンルを鑑賞する。 本フェアは、誰もが無料で楽しめる「ロビーギャラリー」エリアと、有料のチケットが必要な「ホールE」エリアで構成されている(チケットは前売・当日券とも、インターネットでの予約購入制)。 ロビーギャラリーだけでも30以上のギャラリーが並び、さまざまなジャンルの作品を鑑賞できる。とてもオープンな雰囲気で、気軽にギャラリストや作家らと会話もできる。入場料もかからないので、気兼ねなく立ち寄ってみてほしい。じっくりと巡っていると、あっという間に時間が過ぎるので、余裕を持って訪れることをおすすめする。 Photo: Naomiロビーギャラリー展示風景 有料チケットが必要な「ホールE」エリアでは、さらに100以上のギャラリーが並ぶ。全国各地、そして海外からも出展する数々のギャラリーが、今最も紹介したい作家・作品群を展示・販売している。 特に今年はミュージアムの展示室にあってもおかしくない貴重な作品が、例年以上に紹介さ

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」が開幕、5の見どころを紹介

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」が開幕、5の見どころを紹介

京都中心部のユニークヴェニューを舞台にしたアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024(アーティスツフェアキョウト)」が開幕した。 今年で7回目となる本フェアが、他のアートフェアと大きく異なり、かつ唯一無二ともいえる特徴が、ギャラリーではなくアーティスト主導で企画されていること、そして美術展とアートフェアをボーダレスに開催していることだ。次世代のアーティストが世に羽ばたくためのきっかけづくりとして、また来場者とアーティストとのコミュニケーションを生み出す場として、年々スケールアップし続けている。 本記事では「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」で訪れたい見どころや楽しみ方を紹介する。 1. 世界遺産と現代アートのコラボレーションを満喫する 今年のメイン会場の一つは、2022年以来2回目の会場となる「音羽山清水寺」だ。世界遺産にも指定されている敷地内のさまざまな場所で、アドバイザリーボードとして参加するアーティスト16人の作品が展示されている。 まず来場者を出迎えるのは、彫刻家ヤノベケンジの新作「SHIP'S CAT(Ultra Muse Black)」。世界各国から訪れる多くの観光客が、笑顔でカメラを向けていたのが印象的だった。 その先にある西門の前には、高級車で石焼き芋を販売する「金時」などで知られるアーティストユニット「Yotta」によるネオ伝統こけし「花子」が横たわる。昨年は、京都駅近くの「東本願寺」前に横たわっていたが、今年はそれ以上のインパクトかもしれない。 Photo: NaomiYotta「花子」 愛らしい声で話す「花子」のモデルは、東北地方の温泉地に伝わり、ひと昔前まで日本のどこの家にも必ずあった、伝統的なこけし。そこに宿る人々の願いと、こけしが持つ玩具的意味を取り戻すことが試みられており、紋様にも東北各地に伝わるものにYotta独自のアレンジが加えられている。 Photo: Naomi成就院 境内奥の「成就院」では、本アートフェアのスタート時からディレクターを務める椿昇と、アドバイザリーボードの伊庭靖子、小谷元彦、鬼頭健吾、名和晃平、やなぎみわ、ボスコ・ソディ(Bosco Sodi) らの作品が展示されている。 椿の作品は、ともすると見逃してしまいそうなほど繊細だが、命をつなぐ営みが表現され、美しい庭園に見事に溶け込んでいた。   Photo: Naomi椿昇「Dragonfly」   床の間全体の空間で展示したミヤケマイは、掛け軸の新作「珠 circle or cycle」で、今年の干支でもある龍に陰陽五行思想を、龍が持つ珠に円や縁の意味合いを重ねた。掛け軸の中央に刺繍で記されているのは、東洋の武士道や思想にも隣接していながら、私たち日本人も耳なじみのある英語の言葉。何が書かれているかは現地で確かめてみてほしい。   Photo: Naomiミヤケマイ 展示風景   敷板に置かれた石と、そこに載せられたガラスの球体による作品は「天の配剤 Sometimes the Apple Falls Far from the Tree」。ミヤケは「実はガラスも原料は硝石。つまり、見た目も特性も異なるが、ごく一般的な石と同じ石といえます。そしてガラスの球体には水が入っている。石からできていながら、割れやすいガラスに、私たち人間を象徴する水を入れ、作品として未来に伝わっていくことをイメージしました」と、作品に込めたメッセージを語ってくれた。 また、うっかり見逃してしまいそうになるが、奥まった茶室

逆境から生まれた切り紙絵「マティス 自由なフォルム」展が開幕

逆境から生まれた切り紙絵「マティス 自由なフォルム」展が開幕

「色彩の魔術師」とも呼ばれた20世紀フランス絵画の巨匠、アンリ・マティス(Henri Matisse)。彼が後半生で精力的に取り組んだ「切り紙絵」の作品群にフォーカスする日本初の大規模展が、乃木坂の「国立新美術館」で開幕した。 フランス南部にある「ニース市マティス美術館」が全面協力し、絵画、彫刻、版画、テキスタイルなどの作品や資料を約150点紹介。本展に合わせて修復された、幅8メートルを超える切り紙絵の大作「花と果実」(1952~53年)や、最晩年に携わったことで知られる「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」の空間再現など、展示室で体感してほしい見どころが満載だ。 Photo: Naomi展示風景 © Succession H. Matisse 病床でたまたま出会った絵画制作が人生を決める 本展の前半、セクション1~3では、50代でニースへ移住するまでの半生と作品の変遷を、ほぼ時系列に沿ってたどることができる。 幼い頃から病弱だったマティスが独学で絵を描き始めたのは、20代前半のこと。虫垂炎で入院した病床で、母親から絵の具のセットをプレゼントされたのがきっかけだった。当時は法律事務所での仕事に就いたばかりだったが、次第に絵画制作に魅了されていく。 パリの国立美術学校で、象徴主義の画家であるギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau)と出会い、彼のアトリエで制作したり、「ルーヴル美術館」で模写に励んだりと研さんを重ねた。また、印象主義のカミーユ・ピサロ(Camille Pissarro)や、新印象主義のポール・シニャック(Paul Victor Jules Signac)ら、同時代の画家たちとも交流している。 Photo: Naomi展示風景 © Succession H. Matisse そして、北フランスで生まれ育ったマティスが、南フランスのトゥールーズやコルシカなど各地を転々とする中で、温暖な気候と明るい日差しの風景に出合ったことが光の表現と色彩の探求という大きなテーマにつながるなど、いくつもの転機がマティスの絵画表現を飛躍させていく。 特に1905年、当時フランス領だったスペイン・カタルーニャの町、コリウールに滞在して描いた作品群は、同年秋に開かれた展覧会「サロン・ドートンヌ」に出品され、後に「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれる潮流を生む契機となった。 Photo: Naomi© Succession H. Matisse 本展では、油画だけではなく、版画やデッサンも多数紹介されている。特に、1941~42年にかけて描いた160点をまとめたデッサン集「テーマとヴァリエーション」(1943年)に掲載された作品群をはじめ、陰影を緻密に描き込んだものやシンプルな線で描かれたデッサンは、見比べる楽しさがあって興味深い。 絵画と彫刻の連作やアトリエで愛用した品々を紹介 本展の見どころの一つに、絵画と彫刻の関係性が挙げられるだろう。絵画と並行しながら、彫刻の制作も学んだマティスは、同じモデルや主題を絵画と彫刻の両方で表現することにも取り組んできた。また、細部の表現を少しずつ変えた彫刻の連作シリーズも手がけている。 今回展示されたブロンズの彫刻作品は、「オルセー美術館」がニース市の「マティス美術館」へ寄託しているもの。貴重な木彫作品とともに、ここまで多くのブロンズ彫刻の作品が並ぶのは珍しい機会だろう。絵画表現との共通点を探してみるなど、じっくりと鑑賞して楽しんでほしい。 Photo: Naomi展示風景 © Succession H. Ma

小林武史が総合プロデュース、「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」始まる

小林武史が総合プロデュース、「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」始まる

千葉県市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市が連携し、官民協同で初めて開催する大規模イベント「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」。2024年3月23日(土)から5月26日(日)まで、アート作品の展示と、ダンスや音楽ライブがスタートするのを前に、総合プロデューサーの小林武史と、アートディレクター・北川フラムが、報道関係者向けの企画発表会に登場した。内房総の各地に点在する展示スペースや出展作家、パフォーマンスを予定しているミュージシャンらの発表を行った。 Photo: Naomi「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」総合プロデューサー 小林武史 画像提供:百年後芸術祭 「百年後芸術祭」は、千葉県誕生150周年記念事業の一環として、2023年秋にスタートした。百年後の新しい未来を創っていくために、アートやクリエーティブ、テクノロジーの力を融合し、持続可能なプラットフォームとしての芸術祭を目指して活動している。 これまでに音楽・映像・ダンスと、ドローンによる演出が融合したパフォーマンス作品「en Live Art Performance」が、2023年秋、小林が総合プロデュースする木更津市の「クルックフィールズ(KURKKU FIELDS)」で披露され、大きな話題を呼んだ。また、内房総の魅力的な食材を集結させた、食と学びの新たな食体験イベント「EN NICHI BA(エンニチバ)」も開催されている。 画像提供「百年後芸術祭」「en Live Art Performance」 「LIFE ART」「LIVE ART」を両軸に展開 49日間にわたって2024年3月23日(土)から5月26日(日)まで開催される本芸術祭は、「LIFE ART」をテーマに約80組の作家が参加するアート作品の展示と、「LIVE ART」を旗印に小林がプロデュースするスペシャルライブ4公演が行われる。 サブタイトルに掲げられた「環境と欲望」ついて小林は、「今さまざまな問題をはらんでいるのは欲望でしょう。問われているのは、欲望を捉え直したり、質を変えたり、工夫することを考え、想像し、表現しながら、新しい次元に向かうこと。100年後というのは、ここにいるほとんどの人がいない未来だからこそ、利他的な感覚が生まれるのでは」と話した。 Photo: Naomi「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」総合プロデューサー 小林武史 また、千葉・内房総というエリアで芸術祭を開催する意味を、「東京に隣接し経済成長を支えてきた一方で、自然の力も残っている場所。都市と自然、アートとビジネス、現在と未来、そして環境と欲望、さまざまなカウンターパートを考える場としてもふさわしい」とコメントしている。 アート作品の展示をディレクションする北川は、2014年から市原市で3年に1度開催されてきた芸術祭「いちはらアート×ミックス」の総合ディレクターでもある。今回は5市に点在する展示エリア全てを巡り、そこに暮らす人々の生活、地域の歴史や営みを、アーティストらが作品として表現する構想を語った。 Photo: Naomi「百年後芸術祭 ―内房総アートフェス―」アートディレクター 北川フラム 内房総を旅するように楽しみたい展示の数々 アートフェスが開催される内房総の5市は、それぞれに特色と魅力がたっぷりあるエリアだ。東京都内からは少し遠いイメージがあるかもしれないが、例えば木更津市なら、JRなどの鉄道、または東京駅八重洲口や渋谷・品川・新宿から高速バスを利用して約90分で到着できる。